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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)1472号 判決 1984年4月24日

原告

新田修祥

右法定代理人親権者(父)

新田一矢

同(母)

新田和代

右訴訟代理人

岡村親宜

山田裕祥

藤倉真

被告

石川保雄

右訴訟代理人

高田利広

小海正勝

主文

一  被告は、原告に対し、金三一四四万円及びこれに対する昭和四四年五月四日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の、各負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

ただし、被告が金三〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告は原告に対し、金六二七二万五〇〇〇円及び右金員に対する昭和四四年五月四日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言。

(被告)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  主張

一  原告の請求原因

(一)  当事者

原告は、昭和四四年五月三日、訴外新田一矢と同新田和代との間に出生した男児であり、被告は、肩書地において、産婦人科、内科等を診療科目とする石川医院を経営する医師である。

(二)  原告の出生と障害発生の経緯

原告の母和代(以下単に和代という)は、昭和四四年五月三日午前一一時一一分、被告経営の石川医院において、被告立会いのもとに、原告を分娩したが、原告の右上肢は出生直後より動かず、右障害は分娩麻痺による右上肢機能障害と診断され、原告は、身体障害者等級第三級の障害者と認定された。右の経過を詳述すると次のとおりである。

1 原告の母和代は、原告を懐妊後、石川医院において被告の診察をうけていたが、原告は骨盤位(いわゆる逆子)であつた。

2 被告は、昭和四四年三月一一日、和代の腹部レントゲン写真を撮影し、骨盤と児頭の差を0.5センチメートル(骨盤の方が0.5センチメートルだけ児頭より大きい)と認め、経膣分娩可能と判断した。

3 昭和四四年五月二日、出産の徴候があり、和代は石川医院に入院。同日午後七時頃から人工による陣痛が発来し、翌三日午前九時三〇分頃自然破水した。

4 原告の分娩については、被告と被告から依頼を受けた訴外石居秀朗医師が介助、診療を行い、骨盤位(足位)であつたためまず最初に娩出された原告の足を引張つて臀部、腹部を順次、娩出させたが、児頭と骨盤が不均衡なうえ、和代の陣痛が微弱でかつ同女が衰弱していてふんばる力も弱かつたため、児頭は容易に娩出されなかつた。

5 そこで、被告及び訴外石居医師は、原告の肩部に手をかけ原告を引張つて娩出させたのであるが、そのため原告の腕神経叢が過度に牽引されて損傷した。

6 原告は、仮死状態で出産し、被告の蘇生術と酸素吸入により蘇生したが(ちなみに、その出産時の体重は三五五〇グラム、身長四六センチメートル、胸囲三五センチメートル、頭囲三七センチメートル)、前記損傷のため、原告の右上肢は出生直後より動かず、和代が被告に右異常を訴えたところ、被告は一か月で治る旨応答していたが、その後も異常状態が継続し、同年九月一〇日、国立小児病院で受診の結果、分娩麻痺による右上肢機能障害と診断され、昭和五〇年六月一七日、原告は東京都より身体障害者等級第三級の障害者と認定され、今日に至つた。

(三)  被告の責任

被告は、左記いずれの理由によるにせよ、原告が前記障害のために蒙つた後記損害を賠償すべき義務がある。

1 債務不履行の責任

(1) 被告は、原告の法定代理人新田一矢、同和代との間で締結した原告の出産についての診療契約に基づき、原告に対し、原告の出産に際して適切な治療行為をおこない原告を安全に分娩させるべき診療契約上の義務を負つていたものであり(胎児たる原告との関係で民法七二一条を準用もしくは類推適用)、これを本件に即し具体的に述べれば、次のごとき診療義務を負つていたものである。

(イ) 胎児が頭位であるか骨盤位であるかを把握し、骨盤位の場合には難産が予測されるので、安全に分娩させるため、胎児及び骨盤の状態を正しく把握する義務。

(ロ) 分娩前にレントゲン撮影を行い、これによつて児頭と骨盤の大きさを確認したうえ、分娩時までの児頭の成長も考慮して分娩時の骨盤の大きさが児頭の大きさよりも一センチメートル以上大きいか否かを計測し、児頭骨盤不均衡(C・P・D)の有無を把握する義務。

(ハ) 妊婦の骨盤の大きさから児頭の大きさを引いた数値が一センチメートル以下で児頭骨盤不均衡が確認された場合、腕神経叢等の損傷による分娩麻痺を避けるため、経膣分娩でなく帝王切開による分娩を行うべき義務。

(ニ) 仮に、児頭と骨盤が絶対的不均衡でなく経膣分娩が全く不可能ではないため、帝王切開による分娩でなく経膣分娩を行わせる場合には、腕神経叢等の損傷による分娩麻痺を避けるため、分娩の際、原告の肩と頭部が過度に伸展しないよう適切な介助を行つて分娩させる義務。

(ホ) 骨盤位の経膣分娩の際、児頭が骨盤狭窄部から安全に娩出される見込みがないことが判明した場合には、直ちに帝王切開による分娩を行うべき義務。

(2) しかるところ、本件の場合、被告自身、昭和四四年三月一一日に行つた和代の腹部レントゲン写真撮影の結果から骨盤と児頭の差を0.5センチメートルと判定していることからも明らかなごとく、和代の骨盤の大きさから児頭の大きさを差引いた数値が一センチメートル以下で児頭骨盤不均衡が確認されているのであるから、経膣分娩でなく帝王切開による分娩を行うべき場合であつたのに、被告は、児頭骨盤不均衡に関する正しい知識を持つていなかつたため、漫然、0.5センチメートル以上の差があれば経膣分娩が可能であると考えて経膣分娩を行わせ、帝王切開を行うべき義務を履行せず、また、右経膣分娩の途中、原告の児頭が和代の骨盤狭窄部にひつかかり容易に娩出されなかつたのであるから、原告の肩と頭部が過度に伸展して腕神経叢を損傷したりすることのないよう適切な介助術を施して安全に原告を分娩させるか、それが困難と判断されたときには直ちに帝王切開による分娩を行わせるべき義務があつたのに、これを履行せず被告及びその履行補助者たる訴外石居医師が、漫然、原告の肩に手をかけ原告を引き出すことによつて分娩を行わせた結果、原告に前記障害を負せたものである。

したがつて、被告は、被告自身及び被告の履行補助者たる訴外石居医師の右各債務の不履行につき、原告に対し、民法四一五条に基づく損害賠償の責任がある。

2 被告の不法行為責任

被告は、前記のとおり、肩書地において石川医院を経営する医師であり、原告の両親である前記新田一矢、和代夫婦ないし原告の母和代より依頼をうけて原告の出産についての介助と診療を引受け、自から依頼した訴外石居医師とともに右介助と診療行為を行つていた者であるから、必要に応じ前記1の(イ)ないし(ホ)のごとき処置をなすべき注意義務を負うものであるところ、前記のごとく昭和四四年三月一一日に撮影したレントゲン写真により和代の骨盤の大きさと原告の児頭の大きさに僅か0.5センチメートルしか差がないことを認識していたのであるから、当然、本件の場合が児頭骨盤不均衡の症例であることを認識し、原告に前記のごとき障害が発生するのを回避するため、和代に経膣分娩でなく帝王切開による分娩を行わせるべき注意義務があるのに、児頭骨盤不均衡に関する正確な医学知識を欠いていたため、漫然と0.5センチメートルの差があれば経膣分娩により安全に原告を分娩させることができるものと速断して、和代に経膣分娩を行わせ、しかも、右分娩の途中、原告の児頭が和代の骨盤狭窄部にひつかかり容易に娩出されないのを認めたのであるから、原告の肩と頭部が過度に伸展し腕神経叢等が損傷したりすることのないよう適切な介助術を施し、もし、それが困難なときには直ちに帝王切開を行つて分娩させ、もつて、原告に前記のごとき障害が発生するのを回避すべき注意義務があるのに、これを怠り、前記のとおり児頭が骨盤狭窄部にひつかかり、かつ陣痛が微弱で和代が衰弱してふんばる力も弱かつたため、被告の支配下で診療行為を行つていた訴外石居医師とともに、漫然、原告の肩に手をかけ原告を引き出した過失により、原告に前記障害を負わせたものである。

したがつて、被告は、民法七〇九条及び七一五条の規定に基づき原告に生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

(四)  原告の損害

1 逸失利益 四七七二万五〇〇〇円

2 非財産的損害 一〇〇〇万円

3 弁護士費用 五〇〇万円

(五)  本訴請求

よつて、原告は右損害金合計六二七二万五〇〇〇円及びこれに対する前記被告の義務違反行為のあつた日の翌日である昭和四四年五月四日から支払いずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告の答弁

(一)  請求原因(一)の事実は認める。

(二)  同(二)1ないし6の事実については、次のとおり認否する。

1 同1の事実は認める。但し、出産時に骨盤位(逆子)であつたことを認める趣旨である。

2 同2の事実のうち、骨盤と児頭の差を0.5センチメートルと認めたとの点は否認し、その余の事実は認める。

3 同3の事実のうち、陣痛発来の時刻は不知、破水時期は争う、その余の事実は認める。

4 同4の事実のうち、被告と訴外石居医師が原告の出産の介助、診療を行つたことは認めるが、その余の事実は否認する。

5 同5の事実は否認。

6 同6の事実のうち、被告が一か月で治るから大丈夫と応答したとの点は否認、原告がその主張のごとく障害者と認定されたことは不知、その余の事実は認める。

(三)  同(三)の事実及び主張は争う。尤も、被告は、産婦人科医として診療契約上、原告を安全に分娩させるために適切な分娩介助、診療を行うべき債務を負うことまで否定するものではないが(但し、原告は、出生前には契約当事者たりえず、原告と被告との間には原告主張の診療契約は存在しえない)、請負契約のごとく結果として必ず安全に分娩させる債務を負うものでないことはいうまでもなく、被告は、原告の分娩について後記のとおり適切な診療と介助を行つているから、原告に生じた前記障害の結果につき責を負うべき理由はない。

(四)  同(四)の事実は不知。

三  被告の主張

(一)  まず、原告の分娩経過と被告及び訴外石居医師が行つた診療ないし介助行為の内容を明らかにすると次のとおりである。

1 分娩前の処置

妊娠後、和代は石川医院へ毎月妊婦検診に来院していたが、その間、血圧、尿、血液等母体には何ら異常を認めず、妊娠前期に骨盤外計測を実施した結果も正常値以上で、妊娠後期に軟産道の状態の診察も含めて行つた産科真結合線の内診計測の結果でもその長さは充分で骨盤腔の広さにも異常を認めなかつた。

また、分娩前の骨盤レントゲン写真撮影による児頭の大きさと骨盤の大きさの比較、骨盤腔の広さの検討でも何ら異常なく、経膣分娩可能と判断された。なお右レントゲン写真は、東京医大の産婦人科医である訴外石居医師にもみて貰い同様の診断を得ている。

更に、和代が石川医院に入院した時の母体の血圧、尿、胎児心音、その他一般状態は、全て良好で異常を認めなかつた。

2 分娩第Ⅰ期(分娩開始から外子宮口全開大まで)

昭和四四年五月二日夜より不規則な陣痛すなわち前陣痛があり、翌三日朝九時頃から規則的な陣痛発来。内診、子宮口三横指弱拡大、子宮口軟く伸展良好。

同日午前九時三、四〇分頃、訴外石居医師到着。内診、子宮口三横指開口、子宮口軟く伸展良好、心音も正常で陣痛は稍々弱いが規則的で順調。被告は、訴外石居医師とともに右状況等について種々検討の結果、経膣分娩に決定(但し、同日朝には必要に応じ帝王切開による分娩も行えるようその準備を完了させていた)。

和代は、分娩室に移り、導尿、浣腸により陣痛が強くなり同日午前一〇時三、四〇分頃、子宮口全開大となり、子宮口全開大近くに自然破水。

3 分娩第Ⅱ期(子宮口全開大後、胎児娩出まで)

分娩の機転は、第一臀位(児背が左向き。外診所見で、頭部は子宮底に、臀部は骨盤側にあり、児背は大部分が母体の左側に向い小部分は右側にあり、児心音は臍高又はそれ以上において左側に最も明瞭。内診所見で先進部は臀部)で、臀部横径は骨盤入口で第二斜径に一致し、第一回旋によつて左側臀部が下降、先進して骨盤内に進入。第二回旋によつて先進臀部は常に母体の前方すなわち恥骨結合側に向つて回旋しながら下降し、臀部横径は濶部で第二斜径、出口で前後径に一致し、前在の左股関節部が母体の恥骨弓下に達し、前在の左股関節が恥骨弓下に支えられて第三回旋をし、児の脊柱が側彎して後在の右側臀部が娩出、同時に前在の左側臀部が恥骨弓下を滑脱して臀部の娩出を終了。

続く肩甲部も臀部の娩出と同じ経過をたどつて娩出。肩胛骨下部娩出までは自然待期、その後、会陰切開を施行し、横8字型娩出術により容易に上肢を解出した。

児頭の分娩機転は、肩甲の分娩経過中に児頭の分娩が始まり、第一回旋で児頭は屈曲態勢を保ちながら骨盤入口に進入。第二回旋で臀部横径や肩甲横径が第二斜径を経て骨盤腔を回旋下降したのに対し、これらと直角の関係にある矢状縫合は、第一斜径を経て小泉門が先進しながら骨盤腔を下降し、骨盤出口部において前後径に一致するが、その際、術者(訴外石居医師)がファイト・スメリー法を施し、助手(被告)が母体の恥骨結合直上の腹壁より手をもつて児頭を骨盤腔内に圧入することによりすなわち術者(訴外石居医師)の牽引力と助手(被告)の圧入力とを呼吸を合せて行うことによつて牽引力を軽減し、以上の方法によつて比較的容易に児(原告)の項部が恥骨弓下に達したので、後下方への牽引を止め、児頭の項部が母体の恥骨弓下にあらわれた時に、ここを支点として児体を前上方向に向つて静かに持上げると、児頭はこれを支点として横軸回旋をし、母体の肛門側に向いている児の頤部が胸部に接近する屈曲運動を行つて、頤部、顔面、前頭が会陰を通過し、最後に後頭部が恥骨弓下を滑脱して、児頭は比軟的に抵抗もなく娩出された。

以上のように、原告の分娩は、典型的分娩機転で分娩を終了したもので、分娩第Ⅱ期の所要時間は約五〇分位で、臀部娩出までは自然経過であり、臀部娩出より、児頭娩出までの所要時間は二分程度であつた。

(二)  本件において、児頭骨盤不均衡がなかつたことは、右に述べた分娩の経過自体から明らかであり、被告が経膣分娩を選択したことについては何ら責められるべき点はない。

すなわち、もし本件が、真に、児頭骨盤不均衡の場合であつたのであれば、経膣分娩で原告を生産することは物理的に不可能であり、絶対的に帝王切開手術が必要となつていた筈であつて、選択の余地はない。ところが、実際には、原告は経膣分娩によつて出生しているのであるから、そのこと自体が何よりも雄弁に本件が児頭骨盤不均衡の例でなかつたことを物語つているものといわねばならない。

もちろん、被告も、本件分娩について児頭骨盤不均衡の疑いを全くもたずに漫然と経膣分娩を行わせたものではない。被告自身、前記のとおり各種の検査、計測を行い、訴外石居医師にも、相談、検討して貰い、経膣分娩が可能と判断したからこそ、これを選択したのであり、この点において何ら誤りがなかつたことは、前記のとおり原告が生産したという結果自体によつて充分証明されている。

そして、仮に、本件分娩の場合、骨盤の大きさと児頭の大きさの差が通常の場合よりやや小さかつたとしても、そのことは当然に本件分娩につき帝王切開による分娩を行うべきであつたことを意味しない。けだし、右の差が小さい場合に、一般に産科医が分娩介助をなすにあたつて通常の場合よりもより慎重を期せざるを得ないことは事実であるとしても、そのことは、当然に、不可避的に分娩麻痺を伴うこと意味せず(分娩麻痺を発生せしめる要因は後記のとおり多種多様であつて、予じめこれを予見、予防するための検査方法はなく、この観点から分娩方法を選択することは困難である)、開腹手術という母体への侵襲を不可避的に伴い新生児について帝王切開児症候群という症候を伴うことの多い帝王切開分娩はできるだけ避け、可能なかぎり自然分娩(経膣分娩)を本旨とすべきであるとするのが、今日、産科医のみならず通常人の間でも常識とされているところだからである。

(三)  そして、本件機能障害(右上腕神経叢麻痺)の発生は、被告ないし訴外石居医師の過誤に起因するものではないから、この点においても、被告に責められるべき理由はない。

元来、上腕神経叢麻痺は、必ずしも分娩介助者の施術の過誤により発生するものではなく、過誤と考えられない操作によつても発生するものである。すなわち、右障害の発生原因である娩出時の新生児の側頸部過度側方伸展は、分娩現象という一定のリズムのある時間のなかで、一瞬にしてある均等性が破れて新生児に過剰な外力がかかつたときに発症するものであり、その一瞬の過剰な外力を発生せしめる要因には、産婦の体動、娩出力の強さ、弱さ、胎児の分娩時の回旋力、娩出術者の身体の中心の位置、重力等さまざまな因子があり、分娩現象がある限り、この一瞬の過剰な外力の発生を零にすることは不可能である。

そして、被告及び訴外石居医師は、前記のとおり通常一般に用いられている娩出術を適切に行い、原告を娩出させたものであり、その施術の過程に何らの過誤もない。仮に、右施術の際に牽引があつたとしても、それは本件の分娩に不可欠な操作であつたのであり、これによる障害の発生を予見し回避することは不可能であつたから、右牽引をもつて法律上、過失とされるべきいわれはない。

四  原告の反論

原告は、本件が絶対的な児頭骨盤不均衡の場合(児頭の大きさの方が骨盤の大きさよりも大きいために経膣分娩が絶対的に不可能な場合)であつたといつているのではない。本件は、被告が行つた検査においても、被告自身が述べているとおり、骨盤の大きさと児頭の大きさとの差が僅か0.5センチメートルしかなく、安全に経膣分娩を行うことは極めて困難なことが予想される事例であつたのである。

そして、一般に、安全に経膣分娩を行えるのは、その差が2.5センチメートル以上ある場合であつて、産科真結合線と児頭大横径との差が1.5センチメートル以下の場合には児頭骨盤不均衡が疑われ、その差が一センチメートル以下の場合にはその七五パーセント以上が帝王切開による分娩となつているのである。

しかるに、被告は、児頭骨盤不均衡に関する正確な知識を欠いていたために、本件が骨盤と児頭の大きさに僅か0.5センチメートル程の差しかなく、到底安全に経膣分娩を行うことができないことが充分予測される場合であつたにもかかわらず、0.5センチメートルの差があれば、安全に経膣分娩によつて出産させられるものと速断して、経膣分娩を行わせたため、前記のごとく児頭を娩出させるため無理な牽引をせざるを得ない事態に立ち至らせ、その結果、原告に前記のごとき障害を負せたものであるから、その過失は極めて大きく、到底、責任を免れるものではない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因(一)の事実(当事者)については当事者間に争いがない。

二そこで、請求原因(二)の事実(原告の出生と障害発生の経緯)についてみるに、<証拠>によれば、

(イ)  原告の母和代は、昭和四三年一一月、石川医院において、被告の初診を受けて以来、同医院において定期的に妊娠検診を受けていたが、同四四年五月二日、診察の結果、出産の徴候ありとのことで石川医院に入院し、同日午後七時頃から人工による陣痛が発来して、翌三日午前九時三〇分頃、自然破水したこと、

(ロ)  右時刻頃、かねて被告から右和代の出産の介助、診療にあたるよう依頼されていた訴外石居医師が石川医院に到着し、被告は、以後、右石居医師とともに和代の出産の介助、診療にあたつたのであるが、右分娩開始時の原告の胎位は、第一臀位であり、以後、児頭娩出に至るまでは、大要、被告主張のとおりの経緯で推移し(但し、被告の主張中、破水時期、容易に……した、抵抗もなく……した等分娩の進行状況の難易を説明した部分及び臀部娩出より児頭娩出までの所要時間が二分程度であつたとの部分を除く。被告本人の供述中、右主張にそう部分は、原告が後記のとおり第二度仮死の状態で娩出されたと認めざるをえないことと前掲和代の供述と対比するとたやすく採用できず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。)、原告の児頭は石居医師が被告主張の方法によつて牽引を行い被告がその主張のごとき圧入を行うことによつて娩出されたものであるが、出産当時、原告は原告主張のごとく被告によつて第二度仮死と判断される状態で、被告が酸素吸入を行う等の処置をとつた結果、蘇生したものであり、出産時の原告の体重、頭囲等はいずれも原告主張のとおりであつたこと、

(ハ)  そして、原告の右上肢が出生直後から動かず、その障害がその後原告主張のごとく診断され、原告が身体障害者等級第三級の障害者と認定されたことは、いずれも原告主張のとおりであること、

(ニ)  しかして、右障害(上腕神経叢麻痺)の発生原因は、児頭娩出の際の強い牽引による上腕神経叢の過度の伸展ないし断裂にあると推認されるものであること、

(ホ)  ところで、被告が右のごとく和代に経膣分娩を行わせることを決定したのは、基本的には、入院前に撮影した和代の腹部レントゲン写真一枚(その撮影時期について、原告法定代理人和代は昭和四四年三月一一日であつたといい、被告本人は同年四月二四日であつたと供述するところ、右各供述以外、右日時を明らかにする資料は提出されておらず、そのいずれともにわかに確定し難いが、前掲鑑定の結果によれば、右日時の相違の点は、本件の争点に関する判断に大きな影響を与えるものではないと認められるので、その点の確定はしばらく措く)と内診によつて産科真結合線を計測した結果、和代の骨盤の大きさの方が児頭の大きさより0.5センチメートルは大きいと判断し、かつ、それ位の差があれば、経膣分娩が可能と考えていたためであるが、右レントゲン写真を被告の出身母校である東京医科大学の訴外石居医師やその他の医師にもみて貰つて経膣分娩可能との判断を得ていたことがその大きな支えになつており、分娩当日の和代の状態も、格別、経膣分娩に耐えられない状態とは認められなかつたためであること、

以上のごとき事実が肯認されるというのが相当である。

前掲新田和代の尋問の結果中には、原告代理人の「逆児ですから足から出てきますね」との質問に対し「はい」と答えてこれを肯定している部分があるが、逆子だから足から出ますねとの右質問自体からみても明らかなごとく、それが正確に骨盤位における臀位と足位を区別しての応答であつたとは認め難く、和代自身が原告の分娩に際し明確に原告の胎位(足位であつたか臀位であつたか)を確認していたものと認むべき証拠もないので、右和代の供述は、原告の胎位を第一臀位であつたとする前記認定の妨げとなるものではないというのが相当である。

また、一方、被告は、「被告自身、原告の出産当日の午後、原告の母子手帳に第二度仮死と記載したが、実際には、第二度という程重いものではなかつた、それなのに右のごとく事実に反し第二度仮死と記載したのは、原告の出産にあたつて石川医院の従業員を総動員し全力を尽して介助、診療にあたつたので、そのことを原告の両親に知つて貰いたい気持があつたからである」旨供述するが、右被告供述のごとき理由で右のごとき事実に反する記載をすることは、それ自体、被告自身が認めるとおり極めて異例のことであるうえ、前掲新田和代の尋問結果を参酌すると、右被告本人の供述はたやすく採用しえず、他に特段の立証がなされない限り、原告の出産時における状態は、母子手帳に記載されているとおり、第二度仮死と判定される状態であつたと認めるほかはないといわざるをえない。

更に、被告は、被告がその本人尋問において、出産時における和代の骨盤の大きさと原告の頭の大きさの差を0.5センチメートル位と判断し、それ位の差があれば経膣分娩可能と考えた旨供述した際の右0.5センチメートルという数値は必ずしも正確に実際の数値をあらわしたものではなく、レントゲン写真による和代の骨盤の大きさをみたうえでの一応の感じを述べたものにすぎない旨主張するところ、本件において、原告の分娩前、和代の骨盤の大きさと原告の頭の大きさが被告によつて正確に測定され、両者の差が厳密に算出されていたと認めるに足る証拠はなく、前掲鑑定の結果によれば、骨盤位の場合、母体の腹部(骨盤部分)のレントゲン写真一枚によつて、骨盤の大きさと児頭の大きさの差を正確に知ることは、通常、困難であると認められるので、被告がその本人尋問において、骨盤の大きさと児頭の大きさの差が0.5センチメートル位であつたと述べたときの右数値自体は必ずしも正確なものではないと認めるのが相当であるが、被告本人尋問の結果や右鑑定の結果によれば、出産時における和代の骨盤の大きさ(産科真結合線)と児頭すなわち原告の頭の大きさ(児頭大横径)の差(以下、当裁判所の判断として骨盤の大きさと児頭の大きさの差というときは、特にことわらない限り、右産科真結合線と児頭大横径の差の意味でこれを使用する)は、せいぜい0.7センチメートル位のものであり、どんなに大きくとも一センチメートルを超えることはなかつたものと推認されるというのが相当である。

三そこで、以上認定の事実及び判断を基礎にして請求原因(三)(被告の責任)について考えるに、原告は、債務不履行による責任と不法行為による責任を選択的に主張するので、便宜、不法行為責任から検討する。

(一) しかるところ、被告は以下に述べるような過失に基づく不法行為責任を免れないものと解される。すなわち、被告は、原告主張のとおり肩書地において石川医院を経営する産科医であり原告の母新田和代から依頼をうけて原告の出産についての診療と介助を引受け、自から依頼した訴外石居医師とともにこれに従事していたものであるから、原告の母和代が原告を分娩するにあたつて原告を安全に分娩させるため適切な診療と介助を行うべき立場にあつたものであり、原告の分娩開始前、既に原告の胎位が骨盤位であり骨盤と児頭の大きさの差が一センチメートル以下のものであることを認識していたのであるから、まず経膣分娩を試みるか当初から帝王切開による分娩を行わせるかを検討、決定すべき必要があつたところ、これを決するにあたつては、母体と胎児の状態を充分把握し、単に生産が可能か否かという観点からだけでなく母子双方の予後の点も含め、経膣分娩を試みた場合と帝王切開による分娩を行つた場合の各場合に予想される分娩の経過及びこれに伴う母子罹患の危険性の有無ないしその大小を充分比較検討し、慎重にこれを決すべき注意義務があり、右のごとく骨盤位でしかも骨盤の大きさと児頭の大きさの差が僅かに一センチメートル以下のような場合には、一般には児頭骨盤不均衡が疑われ帝王切開による分娩が行われる例も多く、たとえ、経膣分娩自体は可能であつても、分娩が円滑に進行せずそのために分娩麻痺等の障害を発生させる危険性が高くなることを予測しえたのであるから、この点も充分考慮に入れて検討のうえ分娩方法を決定すべきであつたにもかかわらず、この点を充分考慮に入れず、漫然、右程度の差(被告自身の供述によれば0.5センチメートル位)があれば、安全に経膣分娩によつて原告を娩出させることができるものと速断して経膣分娩を行わせた結果、児頭の娩出にあたつて強い牽引をせざるを得ない状態に立至らせ、これによる上腕神経叢の過度の伸展ないし断裂を惹起せしめ、もつて原告に前記障害を負わせたものであり、被告は、右の充分な検討を経ないまま経膣分娩によつて安全に原告を分娩させることができると速断した点において過失の責めを免れないものと解される。

(二)  以下、右のごとく判断するに至つた経緯を摘記すると次のとおりである。

1  まず、原告は、本件の場合、被告は原告の胎位が骨盤位であり骨盤の大きさと児頭の大きさの差が僅か0.5センチメートル位しかないことを認識していたのであるから、当然、児頭骨盤不均衡の場合であることを認識し、帝王切開による分娩を行わせるべきであつた旨主張するところ、本件が骨盤位で骨盤の大きさと児頭の大きさの差が一センチメートル以下と推認される場合であつたことは前示のとおりであるが、そのことから直ちに、原告主張のごとく本件が児頭骨盤不均衡の場合であり帝王切開による分娩を行うべき場合であつたということはできない。すなわち、<書証>や前掲鑑定の結果によれば、右のごとき場合は、一応、児頭骨盤不均衡が疑われ、帝王切開をすべきか否かが検討されてしかるべき場合であつたと認められるが、前掲鑑定の結果によれば、原告の母和代の原告分娩時の産科真結合線はおよそ10.7センチメートル位であつたと推認されるところ、<証拠>においては、産科真結合線が10.5センチメートルあれば経産婦では骨盤位であつても問題なく、初産婦の臀位では経膣分娩も可能と思われるとされており、また、右鑑定の結果においても、骨盤位で児頭骨盤不均衡が疑われる場合であつても、単臀位ないしは複臀位の場合には経膣分娩の可否を決定するために試験分娩を行えるとされていることに徴すると、前記の事実から直ちに原告主張のごとく本件が帝王切開をすべき場合であつたとは速断しえず、他に本件が帝王切開による分娩を行うべき状況にあつたことを肯認させるに足る証拠はない。尤も、右鑑定の結果及び弁論の全趣旨によれば、右にいう児頭骨盤不均衡ないし経膣分娩可否の判定は、児の生死を基準とするもので、原告主張の分娩麻痺の発生防止の可否の観点からのものではないと認められるが、<書証>と前掲鑑定の結果によれば、右のごとく骨盤位であつて、しかも、骨盤の大きさと児頭の大きさの差が小さい場合には、正常分娩の場合と対比した場合は勿論のこと、その差が大きい場合に比し、またその差が小さければ小さい程、分娩が円滑に行われず、娩出時の児頭の強い牽引が予想され、分娩麻痺発生の危険が大きくなることは否定し難い事実であると認められるから、このように予じめ分娩麻痺発生の危険性が大きくなることが予想される場合には、その分娩の診療、介助にあたる産科医としては、単に児の生死の観点からのみでなく、右のごとき分娩麻痺発生の危険性の大きいことも充分考慮に入れ、その他の諸条件をも総合的に検討して、経膣分娩によるか帝王切開による分娩を行わせるかを決するべきであるというのが相当である(尤も、<証拠>によれば、いわゆる分娩麻痺は正常分娩の場合にも発生しうるものであり、分娩麻痺の発生を予見、予防するための検査方法は存せず、この観点から分娩方法を決定することは困難であると認められるが、その発生の危険性の大小自体を予測することは可能であると認められるので、右の分娩麻痺の発生を予見予防するための検査方法がないということは、分娩麻痺発生の危険性の大きさも考慮に入れて分娩方法を決すべきであるとする前記判断を左右するものではないというのが相当である)。

2  しかるところ、右鑑定の結果によれば、本件のごとく骨盤位である場合でも、単臀位ないし複臀位の場合には先進する胎児部分が臀部に下肢が加わり頭囲よりも大きくなるので、分娩時の胎位そのものから直ちに分娩麻痺がおこり易かつたとはいえないが、本件の場合、和代の産科真結合線は10.7センチメートル位であり、原告の体重は三五五〇グラムと平均よりも五〇〇グラム位近くも重く、児頭大横径も成熟児頭の大横径平均九センチメートルより1.3センチメートル長い10.3センチメートルと推測されるものであつて、娩出時における児頭の強い牽引が予測される場合であつたと認められるので、本件は、分娩麻痺発生の危険性の大きいことが予見されうる場合であつたというべきである。

しかるところ、<証拠>によれば、昭和四四年当時における被告のごとき一般産科医にとつても、本件のごとき骨盤位で骨盤と児頭の大きさの差が小さいときには、分娩麻痺発生の危険性が大きくなること自体は、充分認識しえた事柄であり、また、当然認識すべき事柄であつたと認められるところ、被告本人尋問の結果や弁論の全趣旨によれば、被告は、この点を充分認識していなかつたか認識していたにしても、分娩方法を決定するにあたつてはこのことを充分考慮に入れないで、漫然、骨盤と児頭の大きさに0.5センチメートル位の差があれば、安全に経膣分娩によつて原告を娩出させることができるものと速断して、前記のとおり経膣分娩の方法を選択したものと認められ、この点において被告に過失の存したことは否定し難いというべきである(この点については、被告自身その本人尋問において、骨盤と児頭の大きさの差がどれだけあれば安全に経膣分娩を行えるかについては不勉強でよく判らなかつたが、多少空いていればよいという安易な考えで判断した旨供述している点参照。また、被告は、被告自身、必ずしも自信がなかつたから、前記のごとく出身母校の医師である石居医師達にレントゲン写真をみて貰い、同医師らの経膣分娩可能との判断を得ていた旨供述するが、右レントゲン写真一枚からは、たとえ経膣分娩の可否を推定、判断することは出来てもそれ以上に当該分娩についての具体的危険性の有無を正確に判断することは困難なことは前示のとおりであり、そもそも被告自身原告の分娩の診療、介助を引受けたものである以上、最終的には、被告自身が右助言ないし意見等を含めそれまでに得た被告自身の知見に基づいてその責任において判断すべきことはいうまでもないことであり、被告本人の供述する右事実は、何ら被告の責任を免責する理由となるものではない)。

3  しかして、被告がいま少し慎重に骨盤と児頭の大きさの差を正確に把握するように努め、前記のごとき分娩麻痺発生の危険性の有無ないし大小も考慮に入れて分娩方法を決定するように検討しておれば(もつとも、前掲鑑定の結果と弁論の全趣旨によれば、右分娩麻痺発生の危険性というような事情は、それ自体としては必らずしも分娩方法を決定するための重要な要素になるものではないと認められるが、その危険性の大きいことが予測されるような場合には、それが分娩方法を決するにあたつて考慮されるべき一要素になりうること自体は否定し難いものと解される)、本件が前記のごとき分娩麻痺発生の危険性が大きい場合であることに気づいた筈であり、前記被告本人の供述内容に照らすと、そうなれば、被告としても、あえて経膣分娩に固執せず帝王切開による分娩を行わせたものと推認される。尤も、右のごとき分娩麻痺発生の危険性を充分考慮に入れて検討しても、一方において、帝王切開による分娩を行わせた場合には、被告主張のとおり母体に対する不可避的侵襲を伴い、いわゆる帝切児症候群といわれる疾病を伴う危険性があることに鑑みて、むしろ経膣分娩を選択するということも充分に考えられるところであるが、もし、本件が、右のごとき点を充分考慮に入れて検討しても、なお経膣分娩を行つたであろうと考えられる場合であるというのであれば、そのような選択をする根拠となる合理的理由のあつたことが説明されてしかるべきであると思われるのに、本件においては、被告自身、かかる点について納得のいく説明をしておらず、むしろ、前記のとおり不勉強でよく判らず、安易に考えた旨の供述をしていることに徴すると、右理由が明確に主張、立証されない限り、前記のごとく推認するほかはないといわざるをえない。

4  しかして、経膣分娩に入つた後の被告及び被告の依頼を受けて診療、介助に当つていた訴外石居医師の診療、介助行為については、児頭の娩出にあたつて強い牽引が行われたであろうと推認されることは前示のとおりであるが、右牽引がその当時の状況からみて不必要なものであつたとか、その際の訴外石居医師の娩出術に誤りがあつたと認むべき証拠はなく、また、右児頭娩出の際に直ちに帝王切開を行わなかつたことをもつて被告の過失とすべき状況にあつたと認むべき証拠もない。

5  以上のとおりとすると、結局、本件においては、被告は、骨盤と児頭の大きさの差がどれ位あれば安全に分娩させられるものか必らずしも充分な知識を有しないまま、分娩麻痺発生の危険性の大小について充分な検討を加えず、安易に経膣分娩にふみ切つた結果、児頭の娩出にあたつての強い牽引を余儀なくせしめ、もつて、原告に前記のごとき障害を負わせるに至つたものであり、右のごとく安易に経膣分娩によつて無事原告を分娩させられると速断した点において過失の責を免れないというのが相当である。

四そこで、請求原因(四)(原告の損害)について検討する。

1  逸失利益 二一九四万円

(4) 逸失利益の現価

以上により原告が喪つた将来得べかりし利益の前記不法行為時における現価をライプニッツ式計算法により算出すると次のとおり金二一九四万円(但し、一〇〇〇円末満切捨)となる。

363万3400円×0.8×(192390

−116895)=2194万4282円

2  非財産的損害 七〇〇万円

3  弁護士費用 二五〇万円

五以上のとおりとすると、原告の本訴請求中、被告に対し、前記不法行為による損害賠償請求権に基づき金三一四四万円及びこれに対する右不法行為の日の翌日である昭和四四年五月四日から支払いずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるが、その余の部分は理由がないというべきである。

よつて、原告の請求を右の限度で認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(上野茂 畔柳正義 加々美博久)

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